チャコは仔犬の頃から、よく物にぶつかる子だった。
散歩の途中でも、溝に落ちたりするので、
主人に相談してみると、「犬は人間より視力が弱いんだよ。」と。
その頃は、「そそっかしいのかなぁ。」と、それほど気にはしていなかった。
白内障?
チャコとお散歩に行くと、チャコは必ず公園に寄りたがる。
公園に行けば、ボールで遊んでもらえるのだ。
チャコは、ボールを投げては取ってくるという遊びが大好きだった。
公園に到着すると、早く投げてと言わんばかりに、じゃれついておねだりする仕草が可愛かった。
「チャコ!行くよ~!」
合図でボールを投げると、一目散にボールを目がけて走って行く。
しかし…
いつ頃からか、投げたボールをすぐに拾えないことが、多くなった。
ボールを投げたとたん、勢いよく走りだすのだが、途中からボールの行方が分からなくなってしまうようで、すぐそばにあるボールに気付けないときがある。
やっぱり、おかしい… 見えてない?
明るいところで、チャコの瞳を観察してみると、黒い瞳がすこし白濁しているように見えた。
チャコは、まだ3歳。若いのに白内障?
心配だったので、行きつけの動物病院の先生に診察していただいたところ、検査が必要とのこと。
犬の眼の疾患は、専門医のいる医療設備が整った病院を受診したほうが良いとのことで、遠方の眼科のある病院受診を勧めてくれた。
遠いな…
チャコは、車酔いがひどく、乗車時間の限界は30分くらいなのである。
何度も車に乗る練習を試みたが、練習の甲斐なく30分くらいでオエオエが始まる。
紹介してくださるという、眼科のある病院は車で1時間半はかかりそうな場所だった。
犬友に聞いてみたり、ネットで調べたりしたところ、眼の検査ならしてもらえる病院をみつけた。
わりと自宅から近く、車で30~40分といったところだ。
早速、その病院に連絡して、事情を話してみると、快く受け入れてくださった。
検査を受けたあと、その結果でもし手術が必要と診断された場合は手術ができる病院を紹介していただけるとのことだった。
もし、手術が必要なら、遠くても何とかするしかない。
早速、予約をとり検査を受けることとなった。
いずれは見えなくなる
検査は半日を要したが、無事に終了。
その後、院長先生から検査の結果を聞いた。
「残念ですが、治療は困難です。今はまだ少し視力が残っているようですが、いずれは見えなくなると思います。」と、低い声で院長先生が話し始めた。
「えっ……」
主人も私も言葉を失った。
チャコの眼は、両方とも網膜が完全に剥離してしまっていて、手術も無理とのことだった。
白内障にもなりかかっていて、白内障の手術をしても視力を維持することはできないとのことで、点眼薬で様子をみることになった。
なんで、チャコの眼が…
病院から帰る車中で、チャコを抱きしめ涙が止まらなかった。
せめて、片目だったら、もう少し早く気付いてあげられていたらと思うと、悔んでも悔やんでも悔やみきれなかった。
ごめんね…
ごめんね…
ごめんね…チャコ
チャコは前向き!
次第にボール遊びはできなくなった。
5歳頃には、もう殆ど見えていないようだった。
玄関のバケツには、土で汚れたテニスボールやゴムボールが山盛りにあったが、
片づけた。
眼がみえなくても、お散歩は大好きだったし、眼が見えないとは思えないくらい上手に歩いた。
賢い犬だった…
毎日歩く散歩コースは何パターンもあったが、チャコが必ずコースを決める。
私より、少し前を歩き、交差点や曲がり角など、間違えずに行きたい方へスイスイ歩くのだ。
匂いや音、風の流れを感じて歩いているのだろうか…
チャコと一緒に散歩しながら私が気を付けることは、自動車、自転車や人、いつもは置いていない障害物などだけ。
チャコの記憶は正確で、いつもある障害物や溝が、どの辺にあるかはしっかり覚えていて、それらが近づいてくると、自分から歩くスピードを落とし、警戒しながら歩いていく。
ただ、知らない場所では何度も立ち止まり、ゆっくりとリードに身をまかせて歩いていたが、何度か歩くと次第に覚えていく。
家の中では、見えているかのように過ごしていた。
そして何より、ありがたかったのは、チャコが無邪気で性格も穏やかなままで、眼が見えなくなっても以前となにも変わらずに私たちと毎日を楽しそうに過ごしてくれたこと。
前向きに直向きに生きるチャコは、どれだけ私たち夫婦の励みになったことか…
感謝しかない。
「空へ行ってしまった今でも、感謝してるよ~!チャコ!!」
大好きだよ!!
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